「初めて見るメニューは、ひと口も食べてくれない」
「周りのお友達が美味しそうに食べていても、手をつけようとしない」
そんなお子さんの姿に、困ってしまったことはありませんか?
わが家の娘も自閉スペクトラム症候群の診断を受けていて、「新しい食べ物」に対する強い警戒心がずっと続いていました。
「ひと口だけでも」と誘っても頑なに拒否し、給食でも先生にきっぱりと「結構です」と断っていた時期もあります。
でも、発達障害のあるお子さんにとって、これは「わがまま」ではなく、「新奇性恐怖(しんきせいきょうふ)」と呼ばれる特性の表れだといわれています。
この記事では、新しい食べ物を怖がる理由と、わが家で実際にやってきた工夫を、娘のエピソードを交えてご紹介します。
- お子さんが初めての食べ物を頑なに拒む方
- 「みんなが食べていれば食べるはず」が通じず困っている方
- 給食や園の食事で悩んでいる方
※この記事の内容は、すべてのお子さんに当てはまるものではありません。特性には個人差がありますので、参考のひとつとして読んでいただけたらうれしいです。
「新しいものへの恐怖(新奇性恐怖)」とは?

偏食について調べていると、「新奇性恐怖(しんきせいきょうふ)」という言葉を目にすることがあります。
英語では Food Neophobia(フードネオフォビア) と呼ばれ、「新しい食べ物を試したがらない」特性のことをいいます。
「食べない」ではなく「怖い」という感覚
初めて見る食べ物に対して、お子さんが抱いているのは「嫌い」という気持ちよりも、「怖い」「危険かもしれない」という防御反応に近いものだといわれています。
つまり、「わがまま」で拒否しているわけではなく、自分の身を守るための反応として「未知のもの=怖いもの」と認識しているのです。
2〜6歳頃に見られるが、ASDの子はより顕著
新奇性恐怖自体は、定型発達のお子さんにも2〜6歳頃に見られる自然な発達段階のひとつだといわれています。
ただし、自閉スペクトラム症候群(ASD)のあるお子さんの場合は、より顕著で、より頑固に現れる傾向があるそうです。
自閉スペクトラム症候群(ASD)の子が新しい食べ物を怖がる3つの背景
自閉スペクトラム症候群(ASD)のお子さんが新しい食べ物を怖がる理由は、大きく分けて3つあると言われています。
① 想像力の特性による「予測できなさ」
ASDのあるお子さんは、経験したことのないものを頭の中でイメージすることが難しい場合があるといわれています。
そのため、初めて見る食べ物が「どんな味がするのか」「どんな食感なのか」を予測しづらく、強い不安を感じてしまうことがあります。
② 同一性へのこだわり

ASDの特性のひとつに、「いつもと同じであること」に強い安心感を持つという傾向があります。
そのため、見たことのない色・形・匂いの食べ物は、「いつもと違う=拒絶したいもの」として認識されやすいのです。
③ 誤学習による固定化
過去の食事で「嫌だった」「怖かった」経験を、その食べ物全体への拒否感として誤って学習してしまうことがあります。
一度固定化してしまうと、新奇性恐怖から抜け出しにくくなり、偏食が長く続く要因にもなるといわれています。
ASDのお子さんの偏食の特性全般については、まとめ記事でもくわしく解説しています。
ASDの娘の場合|新しい食べ物を「結構です」と断っていた日々
ここからは、長女の体験談をご紹介します。
長女は小さい頃から、新しい食べ物に対する警戒心がとても強い子でした。
「みんなが食べたら食べる」が通用しなかった
偏食への対応としてよく聞く、「周りの大人やお友達が美味しそうに食べていれば、つられて食べる」という方法。
何度も試しましたが、長女にはまったく通用しませんでした。
周りがどれだけ「おいしいよ!」と声をかけても、長女にとっては「自分にとって未知のものは未知のまま」。
他の人が食べていることは、彼女の「怖い」という気持ちを変える材料にはならなかったようです。
給食で先生に「結構です」とはっきり断る

幼稚園の給食でも、先生が「ひと口だけ食べてみる?」と勧めてくださっても、娘は「結構です」とはっきり断っていたそうです。
当時は「なんて頑固なんだろう…」と思っていましたが、今振り返ると、それは自分の中の不安や恐怖から自分を守るための、精一杯の防御反応だったのだと思います。
園や学校の給食での偏食については、【体験談】幼稚園の給食で好き嫌いに悩んだ話でも詳しくまとめています。
高学年になって、自然と挑戦心が芽生えた
そんな娘ですが、小学校高学年になるにつれて、「ひと口だけ食べてみようかな」という気持ちが、自然と育ってきたように感じています。
今まで勇気を出してひと口挑戦してみた食べ物の中に、「意外と美味しかったもの」が少しずつ増えてきたことが、彼女の中で「挑戦の成功体験」として蓄積されてきたのかもしれません。
精神面の発達とともに、「新しいもの=怖い」という感覚が、少しずつやわらいできたようにも見えます。
新奇性恐怖に対するわが家の工夫
無理に食べさせようとすると、「食事=怖い・嫌な時間」という記憶が強化され、かえって恐怖心が大きくなってしまうといわれています。
わが家で意識してきた、いくつかの工夫をご紹介します。
① まずは食材を「見慣れる」ことから

食べなくても、他のおかずと同じように食卓に並べるだけでも意味があるといわれています。
「視覚的に見慣れる」ことは、お子さんにとって、その食べ物への警戒心をやわらげる大切な第一歩になります。
② 楽しい雰囲気の中で食材に触れる機会を作る

食事の場面以外でも、お買い物や料理のお手伝いなど、楽しい雰囲気の中で食べ物に触れると、恐怖心が少しずつやわらぐことがあります。
「食べなきゃいけない場面」ではないので、お子さんも安心して興味を持ちやすいようです。
③ 見通しの持てる「スモールステップ」

これをひと口食べたら、好きなデザートが食べられるよ
など、見通しを持てる声かけが有効な場合もあります。
ただし、お子さんの発達段階や性格に合うかどうかを見ながら、無理のない範囲で取り入れるのが大切です。
④ 「はっきり・短く・具体的」に伝える
「これを食べたらどうなるのか」「何をすればいいのか」を、絵カードや目で見てわかる手がかりを使って伝えると、お子さんの不安がやわらぐことがあります。
新しい食べ物への恐怖をやわらげるには、「安心・安全な信頼関係」がベースになるといわれています。
時間はかかっても、「これは怖くないものだよ」と伝え続けていくことが大切なんですね。
まとめ|「怖い」気持ちに寄り添う関わりを
発達障害のあるお子さんが新しい食べ物を拒むのは、「わがまま」ではなく「新奇性恐怖」という特性が関係していると考えられています。
お子さんにとっては、「嫌い」ではなく「怖い」という気持ちなので、無理強いは逆効果になってしまうことも。
わが家の娘も、幼い頃は頑なに新しい食べ物を拒んでいましたが、高学年になるにつれて、自分から「ひと口だけ挑戦してみようかな」と思える瞬間が増えてきました。
焦らず、お子さんのペースで「安心」を積み重ねていくことが、結果的にいちばんの近道なのかもしれません。
お子さんの偏食に悩んでいるお母さん、できる範囲で少しずつ試してみてくださいね。
参考文献
- 礒田友子・田村文誉・山田裕之・水上美樹・保母妃美子・菊谷武(2024)
「小児の摂食嚥下障害専門外来における偏食に対する取り組み」
『日本障害者歯科学会雑誌』45巻3号, pp.172-182 - 藤井葉子(2017)
「発達障害児の偏食改善」
『リハビリテーション・エンジニアリング』32巻4号, pp.160-163 - 高橋摩理・内海明美・大岡貴史・向井美惠(2012)
「自閉症スペクトラム障害児の食事に関する問題の検討 第2報」
『日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌』16巻2号, pp.175-181 - 水野智美(2025)
「発達障害傾向にある子どもの偏食とその対応」
令和7年度 母子保健指導者養成研修 講義資料(東京科学大学)


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